「東京の農業」を考える(16) | 雨に濡れても‥中沢新一

「東京の農業」を考える(16)

遺伝子組換え作物の<MANDALA>

    <縁>の座:「東京の農業」を考える

        座 長:中沢新一さん(中央大学教授)


4 21世紀の人間が生き延びていくために


 この問題を考えてみたときに、一つの軸をはっきりさせておきたいと思います。農業が伝統的につくりあげてきた世界観。これは、非農業の世界観とは根本的に違うと思っています。非農業というのは、科学や技術の原理と深く結びついていて、この原理というのは、生物体、人間や動物たちが、一個一個の生物体として自己を持っていて、この自己が生きようとする権利を持っていますが、この自己というレベルをすっ飛ばして、抽象的な生命の原理のなかに入ってくるのです。
 そして、この抽象的な生命の原理というのは、表面のようなところで悲しんだり、泣いたり、苦しんだりしている生物のことには、あまり関与しないのです。そういう生物の個体の苦しみや悲しみのことはすっ飛ばして、抽象的な生命のレベルへ入っていきます。そして、この抽象的なレベルで発見される生命の原理を扱おうとします。この抽象的な原理の部分は、人間の科学技術が比較的自由に操作できるのです。なぜならば、このレベルでは、痛いとも、悲しいとも、苦しいとも言わないからです。